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25話 #nahive2qgpj02j4i

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少女がその美しさをけがしたくないからと、自殺をする。そのニュースに顔をしかめ、生きてりゃいいこともたくさんあるだろうに、それも知らずに、と顔をしかめるのが残されたおれたちの役目だ。

無印アイマスとは何か - はじめてのC お試し版

無印ねえ。一方的に送りつけられてくるメールもなければもはや後戻りのできないコイン投入音もなく、タッチパネルの走査線も、勝てば確実に誰かのアイドルを死に一歩近づけることになる対人戦もない、そんなゲームが昔語りに語られて、ありがたがられている。それも現実。(あれも現実。)

以下、アイドルマスターは現実を浸食していたからよかったという話。

中高生の時分の小遣いというのは千円とか二千円とかっていう額で、それで雑誌や漫画を買ったり、ときどきマジック・ザ・ギャザリングのブースターパックを買ったりするだけで精いっぱいだったので、アルバイトをするようになってある程度自由になる金ができてきても、ゲーセンに金を落とすような習慣はないまま、大学生になっていた。ある年の帰省、高校のときの友人たちとゲームセンターで落ち合ったとき、フロアの一角に並んでいた筐体と、タワーのモニタに流れる全国のどこかのプレイヤーが育てたアイドルユニットの映像に惹かれ、最初のカードを作ったのだった。少女を選び、衣装を選び、曲を選び、まあまあ満足できるアイドルができあがる。そうしておれたちは厳しい数字たちの世界に身を投げこんだのだ。そのカードを持って東京に帰った。探してみれば、バイトに行く道の途中にも、アイドルマスターの設置されているゲームセンターはあった(この点においては、東京に住んでいたのはいいことだった)。

ケータイのメールアドレスを登録すればアイドルたちからメールが来る、という機能があった。これがよくなかった。(とてもよかった。)説明する必要はないとおもうが、他愛もない世間話と、この時間にゲーセンに来なさいと、伊織ならだいたい3時間のスパンを指定してくる。一度自分のアイドルが勝負に負けてしまうと、その復活には慎重を要した。最悪の場合には負けが負けをよび、スパイラルに陥ったまま終わりを迎えてしまうことも知られていた。そんな窮地を脱するひとつの確実な方法が、このメールでの呼び出しを待ち、それに応えることだった。それからつねに、勝負の時間帯には気を払う必要があった。混みあった対人戦に飛びこむことは、勝率を下げることにつながるからだ。もちろんそれは自分の育ててきたアイドルの死を意味する。かくしておれは自分の生活の中心にアイドルマスターを置き、都合のいい時間にゲームセンターに寄れるようにアルバイトに出勤し、見知らぬ街に出かけたときにも附近のゲームセンターを探すようになった。メールでの呼び出しが来たときには、雨のなか自転車を走らせもしたし、授業と授業の合間を縫うようにして彼女たちに逢いに行ったのだ。笑える話だけれどそれでおれは真人間の生活をするようになった。そんな話が各人各様にある。

そんな世界は「無印」アイドルマスター以降失われてしまった。老害冥利に尽きるってものだ。おれはふたたびゲームセンターに近寄らないようになった。

少女が死ななかった世界はたしかに豊かだ。夢がある、未来がある。けれど生き残ったものたちは、もし美しいまま死んでいたのなら、と想像をめぐらすこともある。