25話 #nahive2qgpj02j4i

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吊革につかまり立った俺の目の前の席に座っていた高校生がレッツノートを膝の上に出してカタカタとやっていたので興味をひかれて指先の動きから何を書いているのか分からないかと見つめていたのだけれどやはり難しく、代わりに足元を包む服がズボンの形をしていないのに気がついて、男だと思っていたのが実は女の子だったと知った。画面を覗いたときその文章が縦書きであったから、たぶん小説を書いてたのだと思う。脇にはどこかの図書館で借りたのであろう、バーコードの貼られた本が無造作に置いてあった。

前にも図書館の本を読んでいる女の子を見たことがあった。もちろん別の子だが、彼氏なのかどうなのか分からない男と一緒に乗りこんできて、そのとき空いていた俺のとなりに男を座らせて、自分は立ったまま本を取りだして読みはじめた。そのときは本のタイトルがはっきりと見えて、『クリュセの魚』だった。